<1> 育児の原点 〜触れて見つめることから〜

 子どもを病院に連れてきたとき、ただおろおろする親の姿が目につきます。子どもを抱きしめてあげれば、どんなに安心するでしょう。子どもの目を見ない、話ができない、オッパイをあげられない、こんなお母さんもいます。今でも「子どもを泣かせっぱなしにしておくと元気な子になる」と言う、おじいちゃんやおばあちゃんもいます。

 昔から育児は親や祖父母が、それぞれ工夫をしながら進めてきました。子どもの育ち方は千差万別で、素晴らしい個性をつくり上げてきました。
 この50年来、胎児や乳児の成長発達のすべてが解明されてきました。子ども中心に考えると自然に育て方、かかわり方が理解されてきます。その実践効果も良く知られてきました。

 赤ちゃんは胎内にいる10カ月の間に、お母さんによって抱かれ、お母さんの顔を認識し、お母さんの生活の音や声を聞いて大きくなっていきます。胎盤を通して栄養を授かり、38度の羊水は最高の生活環境です。お母さんの好む味、お母さんのにおいは大好きなものとして生まれてきます。最も嫌いなのはたばこやアルコールです。お母さんの精神状態がより安定していると順調に発育しますから、例えば夫とけんかをしたり、お母さんが上の子を強くしかったりする声も胎内の赤ちゃんを緊張させ不安にしてしまいます。

 胎児期のことがはっきりしてきたことにより、生まれてからのかかわり方も分かってきました。まず、お母さんに触れ、抱かれ、30センチの距離で優しく目と目を見つめ合い、語りかけることから始まります。この関係を存分に続けることで、人と人が愛しあい、いたわり合う心が育ちます。その上で赤ちゃんの睡眠・覚せいのリズムに合わせて、楽しく活動的に遊びます。それでも泣いているときに初めて授乳のタイミングが来るのです。
 育児とはこれらの基本的な親子のかかわりを成長とともに変えながら続けることです。お父さんが十分に支えてあげる場面もあります。祖父母は赤ちゃんにとっては第三の支え手となります。早々と保育園やベビーシッターに預けるにしても、この育児の原点をみんなで理解し実践して初めて、赤ちゃんは心地よい満足が保たれます。決して親や大人の思う通りに振り回すことはしないことです。

 (南部春生・2003/05/14 北海道新聞)
 
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この欄は2003年5月から、北海道新聞朝刊に毎週水曜日連載されたもので、「子どもの心と体」について北海道小児科医会 のベテラン医師が分かりやすく解説したものを掲載します。執筆者(敬称略)は次の方々です。
○南部春生(朋佑会札幌産科婦人科) ○門脇純一 ○富樫武弘(市立札幌大学) ○古山正之(古山小児科内科医院)
○堀野清孝(美園産婦人科小児科)  ○梅津愛子(うめつ小児科) ○渡辺徹(わたなべ小児科・アレルギー科クリニック)
○山中樹(山中たつる小児科)  ○田村正(田村小児科医院) ○太田八千雄(豊平おおたこどもクリニック)
○高橋豊(KKR札幌医療センター) ○小池明美(宮の沢小池こどもクリニック)=以上札幌
○稲川昭(いな川こどもクリニック・室蘭)
 

<2> 育児はゆっくりと 〜妻へのいたわり 夫の役目〜

育児は妊娠したその日に始まります。赤ちゃんは10カ月(300日)をかけて生まれ、
10年間の子ども期(小児期)、10年の思春期をゆっくり過ごして大人の仲間入りを
します。
 それでも親、とりわけ母親は「早く生まれて」「早く笑って」「早く寝返りして」「もっともっと早く歩いてよ」と、ゆっくりした子どもの成長発達に拍車をかけがちです。早期教育の重要性を強調する親や大人もたくさんいます。

 つわりのころは、妊娠のつらさをいたわる気持ちを、周囲の人が表してください。特に夫の支えは大切です。また、胎動の不安は「良かったね。しっかりね」と励ますよりは、「マイペースでゆったりとね」。分娩(ぶんべん)は夫、男にはとても計り知れない苦痛です。それだから、いつも妻のそばにいる努力を惜しまないこと。出産時の感動や達成感を二人で共有したいものです。

 生後の10年間は親、特に母親と子どものハネムーンの時期です。補い支える夫や周囲の人、保育所や子育て支援グループの果たす役割は特に大切です。
 生後4カ月までの赤ちゃんは、胎内の生活をそのまま母と子で繰り返す毎日です。たくさん遊んで、ゆっくり授乳し、母子で添い寝をする、疲労回復の時です。気持ちの良い日は二人で外出をし、お母さんの気分転換につなげます。4〜10カ月は寝返りをして、はいずるときです。汚くなるからといって、抱っこばかりは良くありません。お母さん、お父さんと一緒に転がっていれば、赤ちゃんは大満足なのです。
 10〜18カ月は立って、ヨチヨチ歩きをし、散々家の中を散らかして、またお母さんに甘え、おっぱいをねだってきます。目覚めているときはお母さんの仕事は手抜きでよいのです。18〜36カ月は走り、歩いて転び、2、3語文でお母さんを困らせますが、やんちゃな子どもでよいのです。むしろ、このような日々を過ごす妻を、夫がどのようにいたわるかが大切です。

 たとえて言うなら、3歳までは魚・カエル・トカゲ・猿の生活を順序よく過ごすことで、子どもの健全な心とからだの成長が期待されます。ゆっくりと子どもの成長を見守りましょう。

(南部春生・2003/05/21 北海道新聞)
 

<3> 育児と生活リズム 〜目覚めたら優しく声掛け〜

 そろそろ時間がきたので、オムツを替えたり授乳したり、パパが帰ってきたから眠っている赤ちゃんを起こして入浴させる−ということが言われてきました。特にミルクを使用しているときは何時間ごとに与えなさいと、祖母が母に伝えることは今でも見られます。泣いたら直ちに授乳する人もたくさんいます。
 しかし、生まれたばかりの赤ちゃんにも睡眠と覚せいのリズムが成熟しています。このリズムの変化に合わせて、赤ちゃんとかかわることの重要性が強調され、それが子どもの心とからだの健康や生活リズムの確立に役立つことが分かってきました。

 睡眠状態は、深い眠り、浅い眠り、まどろみの3つの段階があります。子どもが動いたからオムツやオッパイと考えず、眠っている子どもはそのままに見守ります。決してオムツに手をやったりせず、口をちゅくちゅく動かしているからといってオッパイも考えないことです。眠っているのですから、お母さんもゆっくりし、掃除機をかけたりガタガタした仕事は控えましょう。
 赤ちゃんは目覚めると「オーオー」と声を出したり、突然「オギャー」と泣き出します。これはどちらも、「お母さん来てくれる。声掛けもしてよね」のサインと思って、仕事の手を休めてください。これは保育所の生活でもそのまま応用しなければいけません。

 親や大人はゆっくりオムツを替え、肌のマッサージを1分間ほどします。それから両手を握って引き起こして遊びます。抱いて、目を見て、優しく声掛け、うつぶせ遊びで手をつなぎます。それでも泣けば丸く抱えて背中をとんとん軽くはたきます。これは子宮にいるときの姿勢ですし、お母さんの声を聞かせながらしてあげると、どんなに強く泣いていても、ぴたっと泣きやみ安心します。これでも泣く時は、授乳のタイミング。たくさん遊んでおいしく飲んで、ぐっすり眠ることが約束されます。
目覚めたら、「オムツ、オッパイ、はいネンネ」ではありません。最初の4カ月のかかわりが赤ちゃんの健康的な生活リズムを確立するのです。


(南部春生・2003/06/04 北海道新聞)
 

<4> 母乳の不安 〜無理に乳離れ必要なし〜

 お母さんの不安は妊娠したその日に始まります。自分自身の悩み、まだ見ぬ子どものこと、夫や周囲の人の理解…と際限がありません。
 かつて、産後3〜5日の札幌のお母さん1,500人に不安の有無を聞いたことがあります。その結果は、生活の不安が45%、上の子の不安が35%、母乳の不安が15%でした。不安の大きいこの3つについて、今回から順次説明します。

 まずは、子どもの健康を守るための最初の問題、母乳です。特に第1子で不安になるのはよく分かります。しかも産後3〜5日のことですから、それは大変なものです。例えば、母乳が足りない、どんなタイミングで飲ませるか、飲んで眠ってもすぐ起きてしまう、飲んでくれないなどです。
 最初の7〜10日に分泌される母乳のことを初乳といいます。これにはたくさんの免疫物質(例えば分泌型免疫グロブリンA)が含まれていますから、ぜひとも繰り返し飲ませましょう。
 繰り返すことで母乳の量が増え、生後2週間たつと赤ちゃんの成長に必要なだけおっぱいが出てくるのです。
 従ってこの期間中にミルクを補う必要はないのです。どうしても心配ならば電話相談や2週間健診を受けて、お母さんの不安の解消に努めたいもの。遠慮は絶対にしないでください。
 生後4カ月までは母乳のみで十分です。4〜10カ月は離乳食が次第にすすみ、母乳やミルクは減少します。いわゆる栄養学的乳離れ(卒乳といいます)は十カ月です。このころにはお母さんの体重が妊娠前に戻るので、母乳はお母さんにとっても最良です。

 10カ月を過ぎると立って歩き出し、いたずらも多くなり、いろいろな刺激や不安を抱いて、またおっぱいを欲しがります。これは赤ちゃんの心の不安を解消するおっぱいですし、1歳半〜2歳、時には3歳まで続く、甘えるおっぱいです。決して無理に離してはいけません。
 この乳離れのことを心理的卒乳といいます。働いているお母さんでも、朝夕夜の甘えるおっぱいを許してあげる。これが愛情というもの。お父さんも傍らでこれを許してあげてください。

(南部春生・2003/06/11 北海道新聞)
 

<5> 上の子の不安 〜赤ちゃん返りに理解を〜

 少子化の時代といわれてから相当の年月が過ぎています。北海道の合計特殊出生数は1.22。つまり、1人の女性が生み育てる赤ちゃんは平均1.22人というわけです。子どもが1人であれば大切にしすぎる傾向があります。他のお友達と遊べるかな、いじめられるのでは、と心配します。どちらにしてもわが子がたくましく育ち、思いやりのある子どもになってほしいと願います。

 2人目の赤ちゃんを妊娠すると上の子は年齢に関係なく甘えだし、お母さんを困らせることが多くなります。お産の日が近づくにつれ、上の子が楽しみにしている外遊びや泥、砂遊びが全くできなくなります。上の子の欲求不満は増大し、親はつい、しかりがちになります。
 下の赤ちゃんが生まれたら、上の子は実際の年齢の半分に赤ちゃん返りをすると理解してください。例えば4歳の子は2歳に、8歳の子なら4歳にというわけです。1、2歳の子ならどうしようもない赤ちゃんになるのです。

 それでは具体的にどうすればよいのでしょうか。まず「お兄ちゃん、お姉ちゃん」と言わないこと。必ず名前で呼んであげてください。それも「○○くん、○○さん」と。
 私は上の子がお母さんと赤ちゃんのお見舞いに来たときに「○○くんはかわいいね。赤ちゃんはどう」と、聞くことにします。そうすると上の子はとてもうれしそうな顔をしながら「かわいいさ」と、返してきます。その上で「ママのおっぱい触ってもいいよ。時々飲もうか」「おしっこ失敗してもいいよ。オムツもしてもらってね」「ごはんを食べさせてもらってもいいよ」「早く外へ出て遊びたいね」「お母さんと一緒に寝てもいいよ」と付け加えます。子どもは、はにかみながら、にこにこ、バイバイしてくれます。

 下の子が大きくなると2人はケンカが絶え間なく続きます。多くは上の子がしかられがちです。ケンカは泣くまで続けさせます。子どもは途中で止められるのを、不快に感じるからです。終わったら泣いた子に優しくして、勝った子はしからないことです。これが結局はたくましい子、思いやりのある子を育てることになります。勝った子をしかると、2人ともしかられたことになり、嫌な思いをします。決して公平な裁きにはならないのです。

(南部春生・2003/06/18 北海道新聞)
 

<6> 生活の不安 〜夫のいたわりが大切〜

 家庭はどれをとっても異なり、千差万別です。母親は専業主婦を選ぶか、共働きか、自営業か、農漁村型か…。核家族化といわれていますが、三世代家族は存在しますし、母子家庭や父子家庭もあります。それぞれに一生懸命、自分の生活を営んでいます。
 このような中で妊娠が始まると、つわりで不安になり、胎動を感じて不安と期待が行き来します。

 出産は強い陣痛が伴います。このようなとき、立ち会ってくれる夫を求めることは特別のことではありません。「パパ、お願い」をかなえてあげたいものです。日ごろから母親自身、体調が思わしくなかったり、妊娠糖尿・中毒症のことが気になったりすると不安が募ります。最近は精神的な不安がとても多く、いわゆる妊娠うつ病もあります。ぜひ遠慮なく産婦人科の先生に申し出てください。

 赤ちゃんが病気だったり、低出生体重児(未熟児)で生まれたりしたときの不安は強く、解消するための時間は人によって差があります。これを支えるのが医療保健スタッフです。対応には優しさが強く求められます。お母さん方はそれぞれに「優しい人でよかった」と喜ぶ一方、「もう少しこうしてほしかった」と嘆くこともあります。このようなことのないように、スタッフ一人ひとりが考えながらかかわります。

 赤ちゃんが生まれると、お母さんは自分の親から受けた育児をしたがります。お父さんも同じです。2人の差異が出て、いわゆる「育児のケンカ」が始まりますが、当たり前のことです。母親は夫や姑(しゅうとめ)との関係や、ペットが育児に与える影響を考えると、緊張し不安になることが多くなります。ここで、いたわる夫の存在が極めて重要となってきます。
 また男も女もそれぞれに人生の価値観があります。妻として夫として、またどんな父や母になるかも育ってきた歴史と関係することですから、誰かが悪いというものではありません。子どもの数によっても不安の持ち方は違います。前週の「上の子の不安」を読み直してください。

 結局はお母さんの不安に夫が耳を傾けることです。また、周囲の人や保育所、育児支援システムの助けを借りて、一歩一歩育児は進むのです。

(南部春生・2003/06/25 北海道新聞)
 
<7> 父親の育児参加 〜毎日の遊びを積み重ねて〜

 小児科の外来や乳幼児健診に、お父さんが赤ちゃんを抱っこして付き添ってくることが、ごく当たり前の光景になっています。父親の育児参加の表れの一つとしてうれしく、一緒に子供のことを考える大切な時間と思います。

 育児は両親でするのが当たり前ですが、役割分担をしようと努力しても、母親に多くの負担がおわされているのが現実です。母親はいつも疲れ果てていて、決して「生き生き育児」ができているとは思えないことがしばしばあります。

 具体的に父親のできる育児は何かを考えていきましょう。父親は多忙であることを理由に積極的な育児参加ができないと言います。しかし、たとえ短い時間でも小さな育児参加を積み重ねることはできない相談ではありません。例えば、妊娠期には母親のおなかに手を当てて、胎児に声掛けをすること。これが父親と赤ちゃんの最初のコミュニケーションです。この繰り返しが、育児に前向きなパパに結びつきます。

 また泣いている赤ちゃんを見て「早くオッパイを飲ませなさい」と言うよりは「よし、少し抱いて遊んであげるよ」としましょう。さらには毎日少し早く帰宅して子どもとふざけて遊ぶことはすばらしく、いわば父性の確立をもたらします。今は育児用品、玩具もたくさんあり、テレビに子供を預けてしまう向きも多いのですが、乳幼児期に必要なのは、1に遊び、2にも遊びで、外での活動的な遊びということになります。父親の休みの日にまとめて遊ぶのではなく、毎日30分、60分の元気な遊びを積み重ねることが最高というわけです。

 育児は母親と父親の考え方の違いが出てくる場面がとても多く、それぞれの生まれと育ちの違いによるものです。互いに考えを交わし合って育児を進めていくのがパートナーの役割であり、これをなくして親子の関係も成立しません。この時も父親の役割は、一日の赤ちゃんとの生活を母親から語ってもらい「今日も大変だったね」と必ずいたわってあげてこそ、円満な夫婦、親と子の生活が進むのです。

(稲川昭・2003/07/02 北海道新聞)
 

<8> 社会の支援態勢 〜遠慮しないで相談を〜

 昔の育児は世代間で伝えられてきたものを通して、進められてきました。何も分からない若いお父さんやお母さんの助っ人役がいつもいたものです。また、世帯が大きいほど、子どもたちはたくさんの大人やお兄さん、お姉さんたちの影響を受け、多くのことを学びました。

 しかし、最近は育児書がはんらんし、同じテーマでもさまざまな意見があります。育児のノウハウを求めるお母さんが、育児書と首っ引きの生活になり疲れ果ててしまいます。どうして良いか分からなくなり、育児不安をもたらし、時には育児過剰となったり、育児拒否となったりします。結局は「こんなに一生懸命にしているのにどうして…」と、子供をたたいて虐待を招くことが、しばしば報道されています。

 小児科医や保健センターの保健師は、不安に嘆くお母さんたちの交通整理の役割を果たしています。しかし、必ずしも、不安のすべてがいつも解決するものでないのも事実です。
 お母さんが、困ったときにまず言ってもらいたいことは、どんな言葉でしょうか。それは「お母さん、毎日大変だったのね。良くやってきたではないですか」のひとことです。問題解決の直接的な解決にはなりませんが、つらかった日々の疲れを少し癒やしてくれます。
 そして、「今心配していることを一緒に考えてみましょうね」「いつも力になりますから、何でも言ってみてください」と、社会全体が時間のかかるのを構わずに聞いてあげられる環境をつくり上げなければなりません。

 どのようなお母さんも利用できる支援システムが、次第にできあがってきました。それは、保育園を利用した専業子育て母さんの支援や、子育てを支えるボランティアです。電話相談は全道各地で実施され、悩み多きお母さんを産科医・小児科医・保健センターで支援する態勢も動きだしています。社会全体が一人ひとりのお母さんを支援する時代です。お母さんは、決して遠慮しないで相談してくださいね。

(稲川昭・2003/07/09 北海道新聞)
 

<9> 幼児期の感染症 〜免疫力つけるため不可避〜

 子どもで1番多い病気は風邪や下痢、嘔吐(おうと)などの感染症です。お産が終わり、職場に戻るため赤ちゃんの健診をすませたお母さんが「今まで病気知らずの元気な赤ちゃんだったのに、保育園に行き始めたとたんに病気ばかり。私は仕事をやめなければならないかもしれません」と来院されました。
 お母さんには「これまで赤ちゃんが元気だったのは、お母さんから病気を予防する抗体をもらってきたし、母乳でも守られてきたからです。赤ちゃんは半年もすれば、お母さんからの抗体も消えてしまいます。また母乳もあまり飲まなくなってくるので、だんだん病気に無抵抗になります」とお話をしました。

 子どもがたくさん集まる場所で生活すると、どうしても風邪にかかりやすくなります。この赤ちゃんが特別弱いのでもなく、保育園や幼稚園の対応が悪いのでもありません。赤ちゃん自身が元気になるには、1度は病気にかかり自前の免疫力を身につけなければならないのです。
 保育園や幼稚園に行かないようにすれば、あまり病気にかかることもなくなるかもしれません。でも、お友達と遊んだり、散歩に出かけたり、家の外に出る機会をつくろうとすれば、また必ず病気になります。赤ちゃんを外に連れ出さないのは、一時的には良いかもしれませんが、いつまでも病気を予防できるものではありません。

 結核やはしかなどワクチンで予防できる病気が幾つかあります。予防接種を受けることが可能なものは、園に入る前に終わらせておくと病気の予防になります。

 話をすると、お母さんは「よく分かりました。結局病気にかかり治っていくしか仕方がないのですね」と納得されました。免疫のないお子さんは、まわりで病気が流行し始めるとすぐ病気にかかります。生後半年くらいから4〜5歳くらいまでは一番感染症にかかる時期ですが、こどもはそのたびに抵抗力を身につけ強くなっていくのです。小学校に入るころにはすっかり丈夫になり、病院通いとは縁のない元気な子になるのが普通です。


(山中樹・2003/07/16 北海道新聞)
 

<10> 感染症の手当て 〜解熱剤使用は高熱時のみ〜

 感染症の原因には、大きく分けるとウイルス、細菌、マイコプラズマ、クラミジア、かびなどがあります。感染症にかかると、熱や鼻水、せき、下痢や嘔吐(おうと)、発疹(はっしん)などさまざまな症状が見られます。子供が病気になった時は、家庭でゆっくり休ませましょう。厚着させる方がいますが、悪寒などの症状がなければ、いつも通りくつろげる服装でかまいません。

 熱があるときは1日3回程度測り、記録すると診断に役立つことがあります。水銀体温計が1番正確です。最近多く使われるようになった電子体温計は、水銀体温計より高めに表示されるため、37.5度以上になったとき、熱があると判断しています。

 解熱剤は微熱の時は必要ありません。38〜38.5度以上の高い熱のあるときに使いましょう。解熱剤を使用すると汗が出て、蒸発するとき体から気化熱を奪うため熱が下がります。水分が不足し脱水状態になると汗が出にくくなり、解熱剤を使用してもなかなか熱が下がらないことがあります。吐き気などがなく、口から飲むことができる場合は十分な水分を与えましょう。

 解熱剤には飲み薬と座薬がありますが、どの薬も効果は六時間程度です。高い熱が続く場合は薬を使っていても4〜6時間程度で再び体温が上がってくることがよくあります。急にふるえがきたり、手足が冷たくなったりする場合は熱が急に上がる前兆になります。

 薬が大好きで苦い薬でもそのまま飲み下す子もいますが、たいていは苦手です。そのまま飲み下せないときは、飲み慣れたジュースやアイス、ヨーグルト、ミルクなどに混ぜて飲むことができるか試してみましょう。どうしてもうまくいかない場合は、かかりつけの医師や薬局に相談してみてください。
 シロップを吐き出してしまう場合でも、粉薬に変え少量の水でペースト状にし、舌や上あごにぬりつけ、水や湯冷まし、ミルクなどで飲み下すと意外と簡単に飲める場合もあります。薬をミルクやジュースに混ぜて飲ませる場合、おなかがいっぱいですと残してしまい薬も全量飲めなくなることがあります。できるだけ少量に溶かして飲ませましょう。

(山中樹・2003/07/23 北海道新聞)