<11> 下痢・嘔吐 〜電解質液で水分を補給〜

 細菌やウイルスが胃腸へ感染すると、発熱や腹痛、嘔吐(おうと)、下痢、血便などの症状が表れます。昔は赤痢、コレラ、腸チフスなどの胃腸炎が多くありました。現在はサルモネラ胃腸炎やO157に代表される腸管出血性大腸菌感染症などの細菌性胃腸炎や、ロタウイルスや小型球形ウイルス(SRSV)などによるウイルス性胃腸炎が一般的です。

 広がり方は、細菌やウイルスに汚染した食べ物や飲み水、患者の便や吐物から経口感染したり、唾液(だえき)から飛沫(ひまつ)感染したりします。防ぐためには、便や吐物はビニール袋に入れ廃棄し、汚れた衣服や寝具、食器などは一般のものと区分けし、市販の消毒液で一定時間処理する必要があります。手洗いの励行やトイレのノブや便器の消毒も大切です。

 サルモネラ菌や腸管出血性大腸菌などは、牛や羊、ニワトリなどさまざまな動物の消化管に常在しており、菌に汚染した食肉や生卵などを食べることで感染します。
 ロタウイルス胃腸炎は、ウイルスが感染し1〜3日で突然嘔吐と発熱があり、灰白色の水様便が頻繁に出ます。またSRSV胃腸炎は、汚染された飲み水や、生ガキ、サラダなど生の食べ物で感染し、学校や幼稚園、飲食店などで集団発生するためSRSV食中毒ともいわれています。
 また、夏は風邪ウイルスのコクサッキーウイルスやエンテロウイルスなどの胃腸炎があります。これらは下痢だけでなく、無菌性髄膜炎や口の粘膜に水泡ができ高い熱の出るヘルパンギーナという病気も起こします。

 胃腸炎の治療で一番大切なのは家庭での食事療法です。吐き気が強く長い間水分をとれず、元気がなく唇が乾燥し尿の出が悪い場合などは点滴が必要になります。吐き気はふつう半日程度で収まりますので、市販のスポーツドリンクや、子供用に薬局で販売されているイオン飲料水などの電解質液を少しずつ飲ませましょう。
 もし電解質液を嫌がる場合は、湯冷ましや番茶の他にみそ汁など塩分を含むものを与え、体液のバランスが崩れないよう注意してください。母乳は制限することなく飲ませてかまいません。ミルクは薄めたものを少量ずつあげましょう。食欲のない場合は1回の量を減らし回数を増やしましょう。離乳食は離乳前期や中期に戻し少量で始めるとよいと思います。


(山中樹・2003/09/03 北海道新聞)
 

<12> ウイルス性発疹 〜ワクチンで予防も〜

 ウイルス感染で皮膚に発疹(ほっしん)の出る病気はたくさんあります。よくみられるのは、麻疹(ましん)(はしか)、風疹(ふうしん)、水痘(すいとう)(みずぼうそう)、突発性発疹、手足口病(てあしくちびょう)、伝染性紅斑(こうはん)(りんご病)などです。

 突発性発疹は、生後半年ぐらいから2歳ぐらいまでの乳幼児がかりやすい病気です。突然39度近い高熱を出します。3、4日で熱が下がると、主に手足を除いた上半身に赤い発疹ができます。
 麻疹は飛沫(ひまつ)または空気感染でうつる伝染力の強い病気です。感染してから10日間ほどでかぜ症状があらわれ、高い熱とともに全身に発疹が出てきます。口の中には粘膜疹ができます。発疹が出る2日ぐらい前から約一週間程度、はしかウイルスがのどから排せつされるため、まわりの人に飛沫感染します。肺炎や中耳炎、脳炎などが起きたり、時には死亡したりすることもある重い病気です。

 これに対し風疹はウイルスが飛沫感染すると約2〜3週間で、発疹、発熱、頚部(けいぶ)リンパ節の腫れ、目の充血などの症状が表れてきます。3日ぐらいで症状が良くなるため「3日ばしか」と言われます。顔や胸から全身に赤い斑点状の発疹がひろがる病気です。
 麻疹に比べると軽い病気ですが、まれに血小板が少なくなり出血しやすくなったり、脳炎になったりする場合もあります。また妊婦が感染すると、心臓の奇形や白内障、聴力障害など、先天性風疹症候群の子どもが生まれることがあります。

 水痘は、水痘ウイルスが飛沫感染し約2週間おいて、顔や首、胸、背中など体の中心部から水疱(すいほう)や赤いポツポツした発疹のでる病気です。現在は抗ウイルス薬があるので、早い時期に服用すれば病気を軽くすることができます。

 麻疹や風疹、水痘はワクチンで予防できるので、1歳の誕生が過ぎたら、できるだけ早めに予防接種を受けましょう。

 夏には、夏かぜのウイルスで手や足、口などに水泡のできる手足口病や、パルボウイルスが感染し二週間ぐらいでほおや手足の外側に紅班がでてくる伝染性紅斑が起きます。これらは、現在のところ予防できるワクチンがないので、自然に病気にかかり免疫力を身につけることになります。また、かぜと同じ病気と考えてかまいませんが、まれに髄膜炎や脳症という重い症状を引き起こす場合があるので、病気を侮らず一度は診察を受けておくのが適切かと思います。


(山中樹・2003/09/10 北海道新聞)
 

<13> 皮膚と呼吸器 〜手洗いとうがい 感染予防〜

 細菌やマイコプラスマ、クラミジアなどは、皮膚や呼吸器、消化器、神経系、泌尿器などの感染症を起こします。

 こどもの皮膚の細菌感染症で多いのは「とびひ」です。とくに夏の季節に多くなり、擦り傷や虫さされ、あせも、アトピー性湿疹(しっしん)などで生じた皮膚の傷に、黄色ブドウ球菌が感染して発症します。抗生物質を飲んだり塗ったりすことで治ります。予防には入浴やシャワーで常に皮膚を清潔にし、使用するタオルや衣類、寝具などを別々にする配慮が必要です。

 また溶連菌の感染による猩紅(しょうこう)熱も幼児や学童に多い細菌性の発疹(ほっしん)症です。胸や下腹部、四肢、顔面などに細かな発赤疹が現れ、回復期には自然に皮膚がはがれ落ちることがよくあります。皮膚症状のほかに発熱やのどの痛み、いちご舌、腹痛などの症状があります。溶連菌の飛沫(ひまつ)感染で起きますが、菌はのどに常在している場合もあり、完全に予防することは難しいです。抗生物質で治療できます。

 肺炎球菌やインフルエンザ菌は気道に感染し、呼吸器感染症を引き起こします。肺炎球菌は飛沫感染すると2、3日の潜伏期で発症し、咽頭(いんとう)・扁桃(へんとう)炎、気管支炎や肺炎、中耳炎、副鼻腔(びくう)炎や髄膜炎などを起こします。特にb型のインフルエンザ菌(冬に流行するインフルエンザとは別です)は感染力が強く、仮性クループ(喉頭蓋(こうとうがい)炎)や気管支炎、肺炎、中耳炎、髄膜炎などの重い感染症を起こします。

 また気管支炎や肺炎などの気道感染症の病原体にマイコプラスマ・ニュモニエやクラミジアと呼ばれるものがあります。マイコプラスマが飛沫感染すると約二、三週間の潜伏期間をおいて気管支炎や肺炎、胸膜炎などの病気になり、発熱や頑固な乾いた咳(せき)が続きます。
 肺炎クラミジアも人から人へ飛沫感染し、約三、四週間の潜伏期間で、咽頭炎や気管支炎、肺炎を発症します。クラミジアにはこのほかオウムやインコなどの糞(ふん)から人に感染し、約二、三週間の潜伏期間をおいて肺炎を起こすオウム病クラミジアや、新生児や乳児に結膜炎や無熱性肺炎を起こすクラミジア・トラコマテイスなどもあります。

 これらの病原体が引き起こす気道感染症は、集団生活している園や学校、友達などから飛沫感染し、広がります。病気が発生したという情報があれば、日常生活の中で手洗いやうがいの励行が必要です。

(山中樹・2003/08/13 北海道新聞)
 

<14> 結核 〜早期のBCG接種が有効〜

 日本の結核患者数は年々少なくなってきましたが、毎年4万人もの新しい患者が発生しています。このうち小児結核患者は年に300人程度の少数です。しかし、成人に比べ死亡率が高く、後遺障害を残すことが多いためあなどれない病気です。
 生まれたばかりの赤ちゃんは、お母さんから結核に対する抵抗力をもらうことができないため、結核菌を飛沫(ひまつ)感染させる恐れのある結核患者(排菌者)が近くにいれば、いつでも感染する可能性があります。

 結核の予防接種には、毒性を弱めた牛結核菌ワクチン(BCG)を使用しています。肺結核の発症をおよそ50%、粟粒(ぞくりゅう)結核と結核性髄膜炎の発症を80%程度防ぐ効果があります。結核性髄膜炎や粟粒結核にかかった乳幼児のほとんどは、BCG接種を受けたことのない子ですので、できるだけ早い時期に予防接種を受け、結核に対する抵抗力を身につけることが大切です。

 また、小児結核は、成長し学童期になってから感染する場合もあります。学校や塾などの集団生活の場で排菌者と接触して感染する場合と、小さいときに感染して休眠状態にあった結核菌が、再び活性化し肺内にばらまかれることにより発症する場合があります。
 子供の結核をなくすためには、第1に乳幼児の髄膜炎や粟粒結核を防止するため早い時期にBCG接種を受けることです。第2に学童結核を効果的に診断治療するための新しい健診体制を理解していく必要があります。

 これまでの学童健診は、小学1年生と中学1年生にツベルクリン反応を行い、強陽性者にはエックス線検査で精密検査を、陰性者にはBCG接種を行ってきました。しかし、今までの健診予防体制が効果的な方法ではないため、今年の四月に新しい制度に変わりました。
 今後は問診により結核発病の危険性の高い学童を把握し、精密検査を実施していくことになりました。全児童を対象に、二週間以上にわたり持続する咳(せき)や喀痰(かくたん)などの自覚症状、結核の既往感染や結核発病者との接触歴があるかなどの問診を行います。結核発病の危険性の高い児童を対象に、ツベルクリン反応や胸部エックス線などの精密検査に進みます。問診票の質問事項に正確に答えることが大切です。


(山中樹・2003/08/20 北海道新聞)
 

<15> 予防接種 〜時期はできるだけ早く〜

 結核や麻疹(ましん)(はしか)、ポリオなどにかかると死亡したり、回復しても重い後遺症を残すことがあります。このような病気に対しては、ワクチンが開発されていますので予防接種を受け、備えておくことが大切です。

 ワクチンには弱毒生ワクチンと不活化ワクチン、トキソイドワクチンの3種類があります。ポリオや麻疹、風疹(ふうしん)、BCGなどの生ワクチンは、自然の病気にかかったのと同じように、強くて長く持続する免疫ができます。一方、百日咳(ぜき)、ジフテリア、破傷風の3種混合ワクチン(DPT)や日本脳炎ワクチンなどの不活化ワクチンや、破傷風、ジフテリアの2種混合トキソイドワクチンは、免疫反応が弱く長い期間持続しません。このため一定間隔でワクチンを追加接種します。

 予防接種法では、安全のためにワクチンの接種年齢が定められています。BCGやポリオ、DPTは生後3カ月から接種できます。インフルエンザや日本脳炎(北海道では任意接種で有料)は生後6カ月から、麻疹、風疹、水痘(みずぼうそう)、おたふくなどの弱毒生ワクチンは1歳から受けるようになっています。水痘、おたふくも任意で有料です。

 また、BCGは四歳まで、ポリオ、DPT、麻疹、風疹などの定期接種ワクチンは7歳半までに接種を受ければよいのですが、できるだけ早い時期に済ませることが大切です。
 母親からの移行抗体が消えていく生後7、8カ月以降になると、0歳児でも麻疹にかかることがあります。保育園などに通うお子さんは、感染の危険性が高いので、生後10カ月を超えると、有料ですが任意で麻疹ワクチンの接種ができます。この時は7歳半までにもう一度、無料の定期接種で麻疹ワクチンを受けることができます。

 ワクチンとワクチンの接種間隔は、安全と十分な抗体反応が得られるように、一定の期間を空けます。弱毒生ワクチンを接種した後は4週間以上、不活化ワクチンは1週間以上たってから次のワクチンを接種します。麻疹、風疹、水痘、おたふくかぜ、突発性発疹(ほっしん)症、咽頭(いんとう)結膜熱などの重いウイルス感染症にかかった場合も四週間程度空けて接種することが必要です。重症の感染症の治療や予防のためにグロブリン製剤の注射を受けた場合は、3〜6カ月間空けて生ワクチンの接種を受けることに
なっています。


(山中樹・2003/08/27 北海道新聞)
 

<16> 予防接種の心得 〜周りでの流行病に注意〜

 予防接種は健康な状態で受けることになっています。その際、家庭で注意することがいくつかあります。
 事前に説明書をよく読み、疑問のある場合には医師に十分尋ね、納得した上で受けるようにしましょう。接種前日は体を清潔にし、予診票の質問事項を記入し、母子手帳を持参して会場へ出かけましょう。

 このように準備していっても予防接種を受けられない場合があります。会場で37.5度以上の熱がある場合や急性の病気で治療を受けている場合、また受けようとしているワクチンでアレルギー症状(アナフィラキシー反応)があった場合や医師が診察し不適切と判断した場合などです。

 また、次に当てはまる人は、医師と十分相談してください。心臓病、腎臓病、肝臓病や血液の病気の治療を受けている人。発育が悪く医師や保健師の指導を継続して受けている人。以前の予防接種でアレルギー反応があった人、検査で免疫異常のあることが分かった人。以前に薬の投与を受け発疹(ほっしん)や体に異常をきたしたことのある人。これまでにけいれんがあった人などです。

 家族や友達など日常生活で接触する人たちの間で麻疹(ましん)や風疹(ふうしん)、水痘、おたふくかぜなどの病気が流行しているときも注意してください。受ける本人自身がその病気にかかったことのない場合、既に感染を受け潜伏期の可能性もあります。病気の潜伏期間が過ぎるまでワクチンは受けずに観察する必要があります。

 予防接種を受けた後は、30分から数時間程度、注射した場所の異常な腫れや全身のじんましん、せきや呼吸困難などの異常が起きたりしないか観察し、もし異常がある場合は医師に連絡し診察を受けましょう。生ワクチンは接種後2〜3週間、不活化ワクチンは二十四時間程度は副反応が出ることがありますので気をつけましょう。ワクチン後の過激な運動は避ける必要がありますが、入浴はかまいません。

 BCGは接種後2〜3週間すると、接種した所に赤いポツポツができ小さな膿疱(のうほう)を作ります。これは副反応ではなく、正常な反応でBCGの効果がある証拠です。包帯やばんそうこうをはったりしないで清潔にしておくと自然に治っていきます。接種した側の脇の下にリンパ節が腫れることもあります。様子を見ていてよいですが、ただれて破れ膿(うみ)が出る場合には医師に診てもらいましょう。

(山中樹・2003/09/03 北海道新聞)
 

<17> 学校伝染病 〜勝手に判断、登校は禁物〜

 保育園や幼稚園、託児所、学校などの集団生活の場は、感染症にかかる機会の多いところです。学校保健法では学校伝染病の流行を少なくするため感染者の登校停止期間を定めています。

 学校伝染病の第一種伝染病には、エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、マールブルグ熱、ラッサ熱、ペスト、ジフテリア、ポリオ、コレラ、赤痢、腸チフス、パラチフスの11疾患があります。いずれも現在の日本では極めてまれな病気です。どれも非常に伝染性が強いので、治癒するまで登校停止になります。

 第二種伝染病には、8つの病気があります。「風疹(ふうしん)」や「おたふくかぜ」は、発疹(ほっしん)や耳下腺腫脹(しゅちょう)が消えれば登校できます。「百日咳(ぜき)」はヒューという笛声音を何度も繰り返す特有の咳(せき)がなくなるまで、「水痘」はすべての発疹がかさぶたになるまで待ちましょう。「インフルエンザ」は解熱後2日間、「咽頭(いんとう)結膜熱(プール熱)」は高熱やのどの痛み、目やになどの主な症状が消えて2日間、「麻疹(ましん)」も解熱してから3日間くらいは自宅療養が必要です。また、「結核」は伝染の恐れがなくなってから登校できます。

 第三種伝染病の腸管出血性大腸菌感染症、流行性角結膜炎、急性灰白髄炎、出血性結膜炎、A型肝炎などは、伝染の恐れがなくなるまで登校が停止されます。
 ヘルパンギーナや手足口病は出席停止に関する特別な規定はありませんが、かぜと同じく症状が重い場合は自宅で療養し、軽い場合は登校してかまいません。伝染性紅班は発疹が出現する時期にはほとんど感染力がなくなっていますので出席停止の必要はありません。

 マイコプラスマ肺炎やロタウイルス下痢症、小型球形ウイルス(SRSV)、アデノウイルスなどによる胃腸炎は症状が治まり伝染の恐れがなくなれば出席してかまいません。アタマジラミ、みずいぼ、とびひなどは治療を行っていれば出席停止の必要はないとされています。

 子どもが病気にかかったときの症状は個人個人で異なります。「子どもが解熱したから病気がよくなったであろう」と親が勝手に自己判断して登校・登園させたりせず、必ず医師の診察を受け、相談することが大切です。


(山中樹・2003/09/10 北海道新聞)
 

<18> インフルエンザ 〜10−12月に予防接種を〜

 気温が次第に下がり寒くなるこれからの季節、小児科の外来はせきや鼻水などの風邪症状の患者さんで混雑してきます。

 風邪は150種類以上ものウイルスが原因で起きる病気です。せきやくしゃみで飛び散った飛沫(ひまつ)に含まれているウイルスが気道粘膜に感染して症状があらわれてきます。大人では鼻水やくしゃみ、せき、のどの痛みなど軽い症状に対し、乳幼児では発熱、声がれ、激しいせき、ゼーゼーする喘鳴(ぜんめい)、呼吸困難など重い症状がしばしば見られます。仮性クループ(喉頭蓋(こうとうがい)炎)や気管支炎、細気管支炎、肺炎などの呼吸器の病気を引き起こします。

 風邪を予防できるワクチンはまだありませんので、風邪がはやっている時には人込みを避けることが第一の予防策です。小さな子が風邪をひいた場合、せきや鼻水の症状が消えるまでには2〜3週間もかかります。この間両親が仕事を休んで子どもの世話をすることはなかなか難しいと思います。子どもに熱がなく、食欲があり、機嫌も良く元気に遊ぶことができれば、日常の通園も可能です。

 熱がでたり、倦(けん)怠感があったり、長時間激しく泣いたり、不機嫌、食欲不振、呼吸困難などの症状がある場合には自宅で療養してください。親が看病できないときは、病気の子どものためのデイケア施設などを使うのもよいと思います。

 一方、インフルエンザは、しばしば風邪と混同されていますが全く違います。
 インフルエンザは12月ごろから少しずつ流行し始め、1〜3月がピークで、4月ごろに終わります。ウイルスが飛沫感染すると1〜3日で急に38〜39度の高熱が出て4、5日続きます。せきや鼻汁、全身倦怠感、筋肉痛、頭痛、咽頭痛、目の痛みやまぶしさ、クループ、熱性痙攣(けいれん)、嘔吐(おうと)、下痢などの症状も認めます。肺炎や中耳炎、脳炎や脳症を合併し死亡したり後遺症を残したりすることがあります。

 最近、正確な診断方法と特効薬が開発されましたので、高熱が出て数日以内に検査を受けインフルエンザと診断されれば薬で治療できます。数日で熱も下がり、今までより早く回復するようになりました。
 予防は、風邪と同じように、はやっている時に人込みを避けることが第一です。また、ワクチンも開発されていますので、流行する前の10〜12月の間に予防接種をうけることをお勧めします。

(山中樹・2003/09/17 北海道新聞)
 

<19> アレルギー性疾患 〜「清潔すぎ」も良くない〜

 小児科外来では20年前に比べて肺炎などの細菌感染症は明らかに減り、代わりに喘息(ぜんそく)、アトピー性皮膚炎といったアレルギー性疾患が増えています。アレルギー性疾患の発症には遺伝の要素が大きいのですが、それと同じくらい食生活も含めた環境とのかかわりが重要です。

 小児喘息の場合、私たちが住み易くなった分チリダニが増えたことや、食生活の変化、大気汚染等がその要因といわれてきました。さらに最近では“衛生仮説”という理論が注目されています。兄弟の多い子ども、早くから保育園などの集団生活を開始した子ども、牧場で過ごした時間が長い子どもにアレルギー性疾患の発症率が低いという調査結果が世界各地から報告されました。衛生環境の改善や、感染の機会が減ったことによりアレルギー性疾患が増えてきたと説明しています。

 細菌やウイルスの感染に立ち向かう免疫の力は私たちの身体がアレルギー体質に傾くのを抑えることが分かっています。乳児期に、この免疫の力が活発に働くことが大切であると考えられますので、お子さんがしょっちゅう風邪をひくからといってそう悲観することはありません。

 また“衛生仮説”の報告の中には動物のいる家庭で育った子どもはアレルギー性疾患の発症率が少ないというものもありました。私たちは喘息の子どもにはなるべく動物を避けるように指導してきましたので、この報告はかなりのインパクトがありました。

 しかし喘息や鼻炎を発症してしまった患者さんは、犬やネコと居ると症状が誘発されるようになることは明らかです。まだ身体がアレルギー体質に傾いていない段階では動物の雑菌やそれに由来する毒素などと接触することの方がアレルギー性疾患の発症という点では有利に働く可能性はあり得ると考えられますが、残念ながらまだ決着の付いていない問題です。
 結局、衛生観念も大事ですがあまり清潔・無菌にこだわりすぎるのも良くないといったところでしょうか。

 遺伝の要素に関しては両親や兄弟、おじ、おば、いとこといった方が何かアレルギー性疾患を持っている場合にはお子さんがアレルギー性疾患を発症する確率は高くなりますので、確認しておいた方が良いで
しょう。


(山中樹・2003/09/24 北海道新聞)
 

<20> 小児ぜんそくの診断 〜呼吸の状態みて早め検査〜

 ぜんそくは「発作性に始まるせき、ぜん鳴、呼吸困難を繰り返して起こす病気」とされています。しかし3歳以下の子どもでは風邪をひくと“ゼーゼー”することはよくありますし、時期を過ぎるとしなくなることも多くなります。そのため医師の側でも「ぜんそく様(性)気管支炎」といった病名をつけて、なかなかぜんそくと診断しない傾向もあります。

 お子さんが風邪をひいて、息を吐くときに“ゼーゼー”が聞こえたら、呼吸の状態をみてください。胸とおなかの境目やのど元がぺこぺこへこむ(陥没呼吸)、息を吸うときに鼻の穴が広がる(鼻翼呼吸)、横になっているより身体を起こした方が楽になる(起坐呼吸)状態は、いずれも呼吸が苦しいことを示しています。この順に程度が強くなります。

 苦しくて夜眠れなくなったり、吐いたり、おなかを痛がったりといった腹部症状を伴う子も多くなります。強い呼吸困難を伴わなくても“ゼーゼー”を繰り返す場合はもちろんのこと、初めて“ゼーゼー”した場合でもこのような呼吸困難の症状を伴う場合は、ぜんそくの可能性がありますので検査を受けることをお勧めします。

 “ゼーゼー”を伴わなくてもたんの絡んだせきが長く続き、特に夜間に症状が強く出るとき、アレルギー検査をすると陽性で、ぜんそくに使う薬がよく効く場合があります。
 ぜんそくを直接診断する検査はありません。小児ぜんそくはアレルギー体質を持つタイプがほとんどで、比率は成人の約六割を圧倒的に上回っています。このため、IgEというアレルギーの抗体の総量やハウスダストやチリダニ(乳児では卵白や牛乳)に対するIgE抗体、アレルギーに関係する好酸球という白血球の数値を調べます。家系にアレルギー性疾患を持つ人がいないか、乳児期に湿疹(しっしん)がなかったか−も診断の参考にしています。

 小児ぜんそくの60数%は3歳以前に発症すると言われています。ぜんそくというのは気管支壁でアレルギー性炎症が持続的におきている状態です。乳幼児期にその炎症を抑えることが、その後の経過に大きく影響する可能性があるので、早めに診断し、治療することが非常に重要だと思っています。

(山中樹・2003/10/01 北海道新聞)